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鳥取家庭裁判所米子支部 昭和53年(少)206号 決定

少年 S・N(昭三五・七・三一生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

一  昭和五三年一〇月一六日午後一一時ごろ、鳥取県米子市○○町××番地○○○○方空地において、A所有の普通乗用自動車一台(時価七〇万円位相当)を窃取し、

二  公安委員会の運転免許を受けないで、同年同月一八日午前五時ごろ、大分県中津市大字○○××番地の×喫茶店「○○○」前路上において上記普通乗用自動車を運転し

たものである。

(適用法条)

一の事実につき 刑法二三五条

二の事実につき 道路交通法一一八条一項一号、六四条

(処分の理由)

少年は、昭和四四年九月から一二月にかけて窃盗(あきす)九件を行い(初発非行)。児童相談所へ通告され、昭和四六年六月にも窃盗(車上狙など)を行つたため、同年七月一日、教護院鳥取県立喜多原学園に入院し、昭和四八年三月三日まで同学園に在院した。そして、少年は、同年四月、中学校に入学したが、間もなく窃盗(万引、更依室荒、車上狙など)を重ねるようになつたため、同年八月三〇日、再び同学園に入院し、中学校卒業まで在院した。少年は、その後精肉店店員、ミシンセールスマンを経て、昭和五一年一〇月、○○運送に就職し、以後本件を機に退職するまで、トラツク運転助手として就労した(但し、昭和五三年一月から同年三月までの間、一時退職してミシンのセールスマンをしている)。少年は、教護院在院中の非行としては、昭和四七年七月二八日に行つた自転車盗があるのみであつたが、○○運送に就職する直前、ミシンのセールスに訪問した先で窃盗を行い、昭和五一年一二月二四日、保護観察に付された。その後、少年は、約一年間特に問題もなくすごしていたが、昭和五三年三月二八日に無免許運転(乗用車)をしてからは、自動車の運転に強い興味を示すようになり、同年五月一二日には普通乗用自動車を窃取して、これを無免許で運転し、この事件と上記無免許運転事件とを併合のうえ、同年六月七日、家庭裁判所調査官の試験観察に付されたのであるが、試験観察期間中である同年八月三一日および同年九月一日に窃盗(置引二件)を行い、同年一〇月四日、再び保護観察に付された。その際、審判廷において無免許運転を二度と行わないよう厳重に注意されていたにもかかわらず、少年は、自動車を運転したさいに、本件を行つたものである。

少年は、内省心に乏しく、意志薄弱で自制心に欠けるほか、劣等感が強く、自己中心的であり、親しい友人もいない(教護院在院中に知合つた者とのつきあいが若干ある程度である)。そのような少年の数少ない楽しみが飲酒と自動車であり、特に自動車運転は、少年にとつて、自分も同年輩の者達と同じ能力があることを確認し得る唯一の場であつたと解される。

以上の事実を考慮すると、少年の健全な育成を期するためには、少年に対し社会規範の内面化、自制心の強化、無免許運転の危険性についての認識の深化などを図ることが必要であるが、少年の性格、経歴、これまでの行状、年令、保護者の保護能力等に照らせば、上記目的を達成するためには、少年を中等少年院に送致するのが相当である。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 楢崎康英)

処遇勧告書

少年 S・N(昭和三五年七月三一日生)

決定 中等少年院送致(昭和五三年一一月一七日決定)

上記少年の処遇について、少年審判規則三八条二項に基づき少年院に対し次のとおり勧告する。

勧告事項

一 生活指導課程

二 少年は、小学校三年生の時に初発非行を行つているが、昭和五一年一二月二四日に保護観察に付されてからは、昭和五三年五月一二日に自動車盗を行うまでの間窃盗を行つておらず、その手口が深化しているとは認めがたいうえ、その非行の型は、現金窃取を目的としたあきす、訪問盗から、運転を楽しむための自動車盗へと重点が移つていると考えられる。また通算四年五か月に及ぶ少年の教護院での生活をみると、少年は、施設内では安定するが、社会内では安定を欠く傾向があるので、長期間施設内で矯正教育を受けさせることは、却つてその効果を滅殺するおそれがある。

以上の点を考慮すれば、少年に対しては施設内での矯正教育の期間が比較的短かい方が望ましいと思料する。

三 少年は、車に対する興味が強く、昭和五三年三月二八日から同年一〇月一八日までの間に無免許運転(普通乗用自動車)で三度検挙されている。少年に対し、矯正教育を通じて無免許運転の危険性を十分認識させるよう指導されることを希望する。

昭和五三年一一月一七日

鳥取家庭裁判所米子支部

裁判官 楢崎康英

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